インタビュー
クラシック音楽の「厳格さ」に忠実に
- 先生のお教室の特徴、指導方針について教えてください。
- 自分が演奏家でもあるので、ピアニストの視点で音楽をとらえています。若い頃は特に小さいお子さんですと「がんばって練習してきたのだから。」とか「子どもだからこれくらいでも。」といったところもありましたが、音楽というのはある意味厳しいもの、クラシック音楽は厳格なものです。私の教室は、一般的な意味での単に音楽に触れる楽しさだけを優先するという教室には入らないでしょう。特に小さな子どもたちにとっては厳しい面もあると思いますが、演奏でもレッスンでもつねに周囲に「音楽の精神を伝えているか」という思いで向き合っています。
- その「厳しさ」「厳格なもの」ということをもう少し具体的に教えていただけますか。
- ピアノというのはキーを押せば音が出る、楽譜に書いてあるとおりの音が弾ければそれでよし、というものではありません。まず自然な拍子感が出てこなければいけませんし、テンポを揺るがさない客観性も要ります。ですから音符の少ないシンプルな曲でもメトロノームを使ってレッスンしますし、弾けてくれば初期から様々なタッチについても教えます。子どもにとってはそんなことより手っ取り早く弾きたい、と思うこともあるでしょう。でもそれは長い目でみればとても大切なことです。
音楽のエネルギーを常に伝えているか、を考えさせる
- 私のレッスンでは、常に音楽のエネルギーを伝えているか、ということを大切にしています。それは音楽の「即時性」とか「推進力」ともいえます。私の教室には、他の教室で何年か習って移ってくる生徒さんも少なくありません。弾いてもらうと、指はちゃんとまわっていますし、音は間違いなく弾けていますが、音楽のエネルギーが感じられない。音楽というのは、タクトが振り下ろされた瞬間からずっと流れていくものでなくてはなりません。そういうものがなくてただ音が出ているだけの状態、先へ先へと流れるエネルギーが感じられなければ音楽ではないと思っています。そのためには、最初の段階から読譜をきっちりやる必要があります。そういったことはバイエルが終わったらやりましょう、ブルグミュラ―に入ったらやりましょう、ではだめなんです。最近では、こういった音楽の根本を重視しない風潮があるような気がして、残念なんですが。
小さい子どものほうが「本物」を直感でわかる
- 小さい子どもでも、それがうまく理解できるのでしょうか。
- その厳しさを子どもたちに伝えるのに苦労しているか、というと意外にそうではありません。逆に「本物」というのは子どもの方が直感でわかるもの。最初から嫌がる子どもはいません。その「甘やかさない」教え方が、結局は子どもにとっても嬉しいみたいです。迎合しないことが逆に子どもにとっても気持ちのいいものになっている。正しいことは気持ちがいい、ということが子どもにはわかるんですね。嫌がるとしたら、最初表面上楽しいだけのレッスンにかなり慣れてしまって途中から変えようとした場合です。また、だからといって私のレッスンが厳しいだけで笑顔もない、なんてことはないですよ。どの子にもレッスンが終わった時、どのくらいの笑顔、すなわち理解度が出ているかを確認しています。
毎年春に生徒一人ひとりの目標を定め1年後に振返りますが、変わっていかない生徒はいませんね。明らかに練習量が少ないという子の場合は仕方ありませんが、上達しない子がいません。他の教室から移ってきた子には、どういう点が足りていないかも明確に伝えます。生徒の音が生き生きとして、教えたことが消化され、そこから生徒本人の表現が聴こえてきた時はうれしいですね。それは単に教えたから出来たという単純なものではなく、その子のこれまでの蓄積ともあいまって外に出た時なんです。こういった瞬間瞬間に立ち会えることが、教えることの喜びですね。
- 黒田ゆか
(クロダユカ)
- 東京音楽大学卒業、1990年名古屋市新進芸術家海外研修生。
- 6回のソロリサイタル、名フィルメンバーとのデュオ、交響楽団との共演、名古屋市文化振興事業団主催コンサート出演ほか演奏歴も長く、近年門下生から各種コンクールで多くの受賞者を輩出。
- 全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)会員、日本ピアノ教育連盟会員、中部ショパン協会会員。
- 中日ピアノグレードテスト、日本クラシック音楽コンクール審査員。
入賞はけっして目的ではなく、結果としてついてくるもの
- 先生のお教室の生徒さんたちは、毎年いろいろなコンクールに挑戦し、素晴らしい成績を収めていますが、その秘訣はどこにあるのでしょうか。
- 生徒たちは小学校低学年ぐらいから漠然と予選通過したい、とか、入賞したいと言ってきますが、それは「一生懸命練習して楽譜どおり間違えないで弾ければいい」というぐらいの認識で言っているようです。でも、もちろんそのためには、曲をきちんと理解し、その理解を深めていって自分の表現にならないと、結果には結びつきません。それは音大生にレッスンするぐらいのレベルの高い内容 になりますが、それを噛みくだいて根気よく教えます。コンクールの受賞などにとらわれず曲の仕上げに向かっていれば 「とてもよく弾けているし、去年よりずっと上達したよ。」でいいのですけれどね。
私としては、けっしてコンクールで入賞することが目的とは思っていません。それはあくまでも結果であって、受賞は通過点にすぎません。目的は少しでも生徒が上達し、ひととしてステップアップしていくこと。そのためのよい機会、と捉えています。最初にも述べましたが、音楽との関り合いの中で、生徒たちがひとりの人間としても成長してくれれば、という広い視野と深い思いで、いつも音楽と向き合っていますから。もちろん希望はかなえてあげたいと思いますので、受賞を目標としたレベルでの指導に引き上げてゆくことになりますが、入賞そのものが目的ではありません。ですからいい結果を出したとしても、「喜んで有頂天になってもいいのはその日だけ!」ということを生徒にも言います。次の日からは気持ちを切り換えてまた練習よ、と。もちろん自分自身の演奏の際にも、それは律しています。
一生ピアノを弾いていきたいという覚悟のある人に教えたい
- 今後の抱負を教えていただけますか。
- 単にピアノを楽しみたい、というだけでなく、専門にピアノを勉強していきたい、また芸術に触れ、音楽を深めてゆきたい、そういう意識を持っている方を教えていきたいと思っています。私がフランスで勉強してきたことも含め、今持っているすべてのものを真剣に伝えていきたいと思っていますので、細く長くでもずっとピアノを弾いていきたい、という気もちのある方に教えたいのです。そしてそろそろ後進の育成にもかかわっていきたいですね。 また私自身としては「80歳を過ぎてもなお矍鑠とピアノを演奏していたい。」・・・そう思っています。