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湯浅譲二先生との思い出

投稿日:2024-08-29

発表会を終えて翌日から東京出張 3日間の予定があり、出かけてきました。

 

音大時代に大変お世話になった作曲家の先生、湯浅譲二先生のバースデー個展コンサートがあり、今年はどうしての伺いたいと思っていたものでした。今年95歳になられるはずだった湯浅先生、実は7月に入った頃から体調が思わしくなくなり、下旬に帰らぬ人となられたのですが、この12日のコンサートは、先生の合唱作品による夕べでした。

 

「湯浅譲二〜95歳の肖像〜合唱作品による個展」、聴きに行けて本当によかった。湯浅譲二Joji Yuasa先生の合唱作品は、ラジオでいくつか聞いたことがあるのみだった。生で聴くとその抑揚のやさしさ、柔らかい自然発生的なひとの声、歌。音響的な変容と時間経過がもたらす微妙な温もり。先生は演奏は演奏家のコスモロジーの反映だとおっしゃっていたけれど、作曲も人間性の反映ですね。プログラム作品を聴いて、先生の出で立ち、お人柄、先生の声を聴いているような気さえして、最後には目頭が熱くなりました。私には特に「プロジェクション〜人間の声のための〜」と「問い」に、大変感銘を受けました。既成観念にとらわれない音楽の開拓力と、聴覚だけでなく視覚にも訴える包容力あるセンスのよさに、どこまでも新鮮な、前衛の力を感じました。音楽についてたくさんのことを教えてくださった湯浅譲二先生の偉大さをつくづく感じ入る夕べでした。

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湯浅譲二先生との思い出としては、あれは1990年代の終わりがけだったんではと思うけど、木村かをり氏と野平一郎氏が湯浅先生の作品を演奏するというので、湯浅譲二先生がリハーサルから招待してくださったことがあった。

当時の私は、1990年頭にマルセイユ音楽院学長のピエール・バルビゼ氏がなくなって日本で何をしたらよいのか徐々にわからなくなっていった頃のように思う。湯浅先生は、名古屋の文化界ではこのひとしかしらないと名前を教えてくださったりしながらも、私にやる気さえあれば木村氏を紹介しようという思いもかすめていたように思う。でも当の私はどんどん無気力に閉鎖的になるばかりの日々。

 

木村氏の前ではあの野平氏さえ弟分のひよっ子みたいな存在にもみえて、木村氏はリハも早々に切り上げ休憩に入られたが、野平氏は学生みたいにかぶりつきでさらっていた。(今から30年も前の話である。)そんなピアノ界姉御肌的な存在の木村氏だなんて、とんでもない。パーティ好きの湯浅先生はその後も千葉の海の見えるアトリエに作曲科の後輩たちが集まるからと声がけくださったり、いろいろな機会にお電話をいただいた時期があった。先生なりの道筋を示してくださろうと思われていたのではと今では思いますが、名古屋に音楽仲間も先生もいない当時の自分は何もなす術もなく。

 

「人間にとっての音〜ことば〜文化」が出版されたばかりだからと言ってプレゼントされたから、2012年に先生といちどお会いしたことがある。東京に来ていると電話したら先生のお住まいの最寄り駅まで来てくださって、そこの喫茶店でお茶を飲んだ。先生は書いていらっしゃる作品のこと、ご家族の近況など楽しそうに話されて「きょうはもう本当に帰っちゃうの?美味しいレストランがあるの、一緒に行けたらよかったのにね。また今度一緒にご飯を食べましょう。」・・・結局それが、先生とお会いした最後になった。

 

私はそれから4、5年で父の介護で徐々に忙しくなり、その介護の最中2018年にワルシャワを訪れ、ピリオド楽器というものを知ることになった。2020年に父が他界、21年から始めたフォルテピアノ。22年、23年とSACLAフォルテピアノアカデミーに受講生として参加、21年からは 小倉 貴久子先生、23年には川口 成彦氏にみていただき、ピリオド楽器とモダンピアノとの密接なつながりを漸く肌で、心で、耳で捉えられるようになり、自分の中でこれだ!というものをやっと初めてつかみつつあるきょうこの頃。自分の出す音が、その時その場限りの即時性を持った自然発生的なものとなり、自分自身がその即興的要素を楽しみ、愛おしくさえ思う。毎日の練習からの全てが変わった。そんな過渡期にある自分。湯浅先生にはもう一度お会いして、お話がしたかった。先生にまた自分の録音を聴いていただきたかった。

 

湯浅先生、大学1年の夏休み前の日、大学ロビーで先生と待ち合わせして、初めてお会いした時のことは忘れられません。それから長い間、本当にいろんなことを諭していただき、ありがとうございました。

 

先生、ゆっくりとお休みください。そして私の音、いつか探してみてくださいね。

きっと先生の心に届けます。 

  

 

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